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デザイン会社の社長の本音、教えます。 [面接必勝法 その2]

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これからデザイン業界を目指す方に向けてお届けしている「面接必勝法シリーズ」。今回はその第2弾です。面接で勝ち抜くためには何が必要か?2回目にして、いきなり「結論」からのスタートです。

ズバリ、90%は作品集です

私たちが経験者を採用する場合、今までどんな仕事をしてきたのか、どんな会社で、どういうチーム構成で制作してきたのかを、大事な判断基準にします。組織の中で働いてきたわけですから、仕事に恵まれずにじゅうぶん力が発揮できなかったというケースもあるでしょう。また、作品のクオリティは高くても、本人の力というより、もっぱら上に就いているアートディレクターが優秀だったお蔭というケースもあります。その見極めはとても難しいので、もし個人的に、写真やイラスト、パンフレット、フライヤーなど作品を用意していたら、喜んでそちらも拝見させてもらうにしています。実際に社会に出て、ギャラをもらってデザインの仕事をしてきた経験者選考に際しても、その人の力量や指向、表現の幅を量るうえで作品集は重要なのですから、新卒採用においてはなおのこと。採用判断の90%はポートフォリオにかかっていると言っても過言ではありません。

あなたが実際の仕事で使えるようになるかどうか(アクのある言い方で申し訳ありませんが)、その可能性はポートフォリオの向こう側に透かして見るしか方法はないのです。面接でどんなに素晴らしい受け答えをされても、話せば話すほど見上げた心構えの若者であっても、惚れ惚れするような成績表であっても、そうであればなおさらのこと、どんな作品を作っているのか、見てみたいのが私たちなのです。そこではじめて、あなたという将来性に素手で触れられるような気がします。それほど、ポートフォリオは大事です。ですから、広告会社やデザイン会社に入るにはどうしたらいいですか?と聞かれたとき、私は、躊躇することなく「まずは、ポートフォリオを充実させましょう」と言います。卒業制作は当たり前でしょうが、授業で出される課題も、やりっ放しではなく、きちんと自分の作品として形の残しておくことをおすすめします。

夏休みには、少し足を伸ばして、日頃の生活エリアや環境の中では取り組みにくい課題を自分に与え、作品として仕上げましょう。社員の中に卒業生が何人もいる原宿のデザイン専門学校は、その点、指導やアドバイスが徹底しているのか、生徒さんは例外なく充実したポートフォリオを持っているので、いつも感心していました。一方で、どこの学校の既卒の方だったか忘れましたが、A4で2枚くらい作品のコピー、しかも少しシワになったような紙を、これが作品ですと言って差し出した女性もいました。もちろん、すぐにお帰りいただいたのは、言うまでもありません。少しキツイですが、そんな少ない作品で評価を仰ごうとするのは心得違いだということ。しかも、シワになるほどぞんざいに自分の作品を扱う人と一緒に働きたくないこと。そもそも、それって失礼じゃないの。と、はっきり伝えたことを覚えています。

短くてもいいので、企画意図を書いて

さて、その作品集について。作るなら絶対に心掛けてほしいことがあります。それは、どんなに短い文章でもいいので、必ず企画意図を添えること。企画意図とは、あなたがどういう戦略を立ててこの広告を作ったのか脳内の道筋をなぞり、広告の狙いを明らかにする「作品の設計図」です。例をあげると、こんな感じです。乳酸菌が従来の3倍の飲むヨーグルトの発売を契機にシェアを一気に拡大したいという与件があったとします。そこで、あなたは考えます。ターゲットをどうしよう。家族の健康を気遣う一家の主婦狙いが王道だが、それではちょっとつまらない。体調に自信が持てない中高年の男性向けに、一週間飲めば寝起きが違う!なんてキャンペーンを打つのはどうだろう。あるいは、美容は腸内環境から、と、若い女性に訴えるのも効きそうだ。いっそのこと、朝に飲む常識をくつがえして、夜にヨーグルトを飲みましょうという新習慣提案を、効能データを添えて働く20代にぶつけてみたらオモシロイかもと。そして、いろいろ考えた末に(そのいろいろひねり出した選択肢もあなたの可能性を語るに充分な証となるのですが)、私はこう考え、この広告を作りましたと、静かに面接官の目を見て言ってごらんなさい。見立てた戦略が多少ズレていたとしても、制作物の仕上がりが甘かったとしても、ただたくさんの作品を並べて見せるよりずっと深くあなたを印象づけることができるはずです。

ずいぶん前のことですが、とても印象に残る広告作品を持ってきた青年がいました。その背景に興味を持った私はごく自然に制作の意図を尋ねてみたのですが、説明がまったく作品とリンクせず、採用を見送ったことがありました。直感的にいいモノができればそれでいいじゃないか、という考えもあります。一理あります。客先でのブリーフィング時に、いいアイデアの一つ二つ降りてくることはよくあることで、そうした原石に大きなハズレがないことも経験上知っています。直感は多くの場合正しい。言葉や理屈は、あとからついてきます。しかし、直感を放ったらかしにしたままで、言葉や理屈に写し取る作業をしないと、その場限りのラッキーな授かり物の域を出ません。つまり、結果を導く方程式として自分の血肉とすることができないのです。サイコロを転がしていい目が出るのを待つ。一喜一憂を、ずっと繰り返すしかなくなります。出目の確立を少しでも高めていくにはどうするのか。方法論を手に入れることです。直感を言葉に写し取る作業は、そのために必要なのです。

正確な言葉は、アイデアや構想全体を一言でグリップします。そして、今度は逆に、言葉からアイデアを浮かび立たせてみると、煙のように朧気だったアイデアに背骨が通り、輪郭が徐々に現れてきます。それを繰り返すことで、アイデアと言葉はリンクしてきます。言葉は思考の核です。自分の言葉を持たなければ、自分なりに考えることはできません。自分らしく考えられなければ、自分だけのアイデアに辿りつくことはできません。理屈です。発想やアイデア、頭の中の映像などを言葉に落としておくことは、せっかくの宝物を失わないためにも、再生させるためにも重要です。

意外と偏るのが、色使い

昔、夢日記というのをつけていたことがあって、その時、深く気づきました。言葉は莫大な記憶を甦らせる覚醒装置だと。夢というものは、誰しもそうでしょう、支離滅裂で、突拍子もなく、脈絡がない。だから、さっき見ていた夢も思い出せないし、まして先週の夢、1年間の夢など記憶のかけらもない。でも、夢日記をつけると変わります。見た夢の顛末を、大量の文字を費やして逐一記述する必要はありません。夢の中の景色や人物、動きを単語に落とし、書き残しておくだけでいいのです。要は、言葉で夢の総体をグリップする。一種の訓練ですが、すぐに慣れます。枕元にノートとペンを置いて書き付けるだけです。そうすると、不思議なことに、半年前の夢、5年前に見た夢であっても、言葉を追うだけで、魔法のランプから出る煙のように、映像が立ち上がってくるのです。細部まで、ありありと。その夜の夢そのままが甦る。道を曲がったところに見えた景色も、空の色、交わした会話の中身まで追体験できる。ぜひ、一度試してみてください。ちょっと感動的です。それが、言葉のチカラなのです。企画意図を書くことが、自分をアピールするうえでも、自分の方法論を身につけるうえでも大事なのが、わかっていただけたと思います。

それからもう一つ。ポートフォリオを作るうえで本人が意外と気づきにくい盲点があります。それは色使いです。社内のクリエイティブディレクターがいつも言っていました。作品のトーンや方向性を変えることは自分の力で容易にできても、小さい頃から身についた色彩感覚、色使いの好き嫌いは、簡単には治らない。仮に自分で相当意識したとしても、ポートフォリオ全体を俯瞰すると、その人ならではの色使いの領域に閉じこもっていることが案外多いのだと。独特の見方ですが、言われてみると確かに、色使いは作品のトーン以上に、その人のキャラクターを色濃く映し出しています。それが素晴らしければ、天性の才能と呼べるのでしょうが、残念ながらイマイチの場合、なかなか抜け出しにくい厄介な呪縛となりかねません。そんな目で、一度、ご自分の作品を高い所から眺めてみてはいかがでしょう。使う色が偏っていませんか。色使いがみんな似てしまっていませんか。自分の幅を広げるうえでも、芸風を狭く見られないためにも、チェックなさってみてください。