デザイン会社の社長の本音、教えます。[面接必勝法 その3]
学びたい!はNG
そう言えば、最近はめっきり出会わなくなったのですが、昔はよくいました。「お金はいりません。一所懸命学ぶので、入社させてください!」悲壮な顔をして、そんなお願いをしてくる人が、採用時に一人か二人は必ずいたものです。自分も大昔に面接される側だった時のことを思い起こせば、必死さがそういう言葉となってつい出てしまうのもわからなくはありません。この手のアピールは効くでしょうか。はっきり言ってNO。逆効果です。お金を出して学ぶのが学校。お金をもらって仕事をするのが会社。そんな基本的なことをわきまえずに、いつまで学生気分でいるの?と、大上段からお小言をビシッと振り下ろしたくもなるのですが、それより何より、状況を踏まえずに自分の願い事だけ押し通してくる身勝手さが、採用する側としてはどうしても気になってしまいます。
私たちは広告屋です。その仕事を平たく言えば、こちら側の伝えたいことや希望を、相手方に間違いなく、しっかりと伝える仕事。コミュニケーションのプロフェッショナルです。そのために、最初にしなくてはならないのは、伝えたい相手が、今、どういう状況にあって、何を求めているのかを洞察することでしょう。採用面接の場に置き換えれば、あなたは入社の希望を伝えたい。自分の有能さをアピールしたい。その相手、つまり面接官は何を求めているのか? そこに、まずは思いを致さなければなりません。採用する側の経営者や制作現場のディレクターは、経験者なら即戦力、新卒でもいずれしっかり仕事を任せられる人材を求めているわけですから、「お金はいりません」「がんばって勉強します」が、どれほど空虚に響くか、ちょっと想像すればわかることではないでしょうか。そこをわきまえずに、ゴリ押しする硬直した姿勢には、コミュニケーションを組み立てていく柔軟さと相容れないものを感じます。
もちろん、会社に入れば勉強しなければならないことはたくさんあります。新卒なら、なおのことです。勉強するのは当たり前。でも、給料をもらいながら学ぶのが、会社です。タダで無責任に学ぶのではありません。学校時代のようにお金を払って堂々と学ぶのとも違います。お金をもらって働きながら、学ぶ。その重さをひしひしと感じ、少しだけ恥じ、心して学ぶ。そして一日も早く、会社を動かす力となれるように努めるのが、社会に出て働く正しい心構えです。だから、「お金はいりません。一所懸命学ぶので、入社させてください!」などと、安易に言ってはいけないのです。仕事への認識の浅さをさらけ出すことになります。おわかりでしょうか。もし、そう言って「おお、タダでしばらく働いてくれるのか。よし、採用してやろう。」という経営者がいたら、間違いなくブラックです。丁重にお断りすることをおすすめします。
エンジン搭載の人になれ
長年、仕事を通じてたくさんの人と接し、社長という立場でいろいろな社員を見て、つくづく思ったことがあります。それは、世の中には2タイプの人「エンジン搭載の人」と「そうでない人」がいるということ。そして、会社になくてはならないのは、間違いなく「エンジン搭載の人」です。説明します。ここに、会社に入ってまだ間もない新人デザイナーがいたとします。ある日、彼は、先輩のアートディレクター、コピーライターと一緒に、お得意先で新製品パンフレットに関するブリーフィングを受けてきました。その日の午後は、メンバーみんなが出払ってしまって、内容確認の打合せができませんでした。翌日の午前中も、夕方になっても、ディレクターは何も言ってきません。さて、あなたならどうしますか? チームを仕切るディレクターが何も言ってこないのだから、とりあえず待機。一旦忘れて、別の仕事に集中することにしますか。それも、手ですね。自分はメンバーの一人に過ぎないわけですから。
でも、彼はそうしませんでした。まずは忘れないうちに聞いてきた内容を共有したい。それから、大雑把なスケジュールだけでも掴んでおきたい。考えにくいけれど、万が一、ディレクターがうっかりしてということもないことはないし。悩んだ挙げ句、彼はディレクターに思い切って声をかけました。「今、お忙しいでしょうが、5分だけでも打合せをしてもらえませんか。聞いてきた内容でわからない点もありますし、自分にできることがあれば始めておきますので」。彼は、実在の社員です。その後、あっという間に頭角を現し、存在感を増して、今では中心的クリエイティブ・ディレクターとして会社を支えています。彼は「エンジン搭載の人」だったのですね。
そうです、エンジンの付いている人は、すべてを<我が事>として捉えます。自分の立場がどうであれ、その仕事との関わりがたとえ薄くても、関わるからには<我が事>として受け止めます。だから、今、自分はどう動くべきか、チームは何をすればいいのか、いつまでに進めればいいのか、自分のアタマで考え、行動を起こします。一方、エンジンを積んでいない人は、自分から動くことが不得手です。もちろん、たくさんの荷物を積むことができる大きな貨車のような人もいますし、素晴らしいおもてなしのできる豪華な客車のような人もいます。そういう、さまざまなキャラクターが集まって、はじめて組織は力を発揮するのでしょうが、それはそれとして、やはり事を動かすには動力が欠かせません。だからこそ、「エンジン搭載の人」は会社に絶対に必要なのです。3人の野手のちょうど真ん中に上がったフライを見て、自分じゃなくても誰かが捕るだろうと静観する人より、君が捕れと指を差す人より、オーライと言って、さっと一歩前に出て捕球しようとする人を、私は良しとしたいと思います。こんな例も引き合いに出しながら、あなたが「エンジン搭載の人」であることを面接の場でアピールできれば、多くの経営者や責任者のみなさんの心をきっと掴むことができるのではないでしょうか。